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東京地方裁判所 平成9年(ワ)5975号 判決 1998年2月24日

原告

高俊興業株式会社

被告

野底清

主文

一  被告は、原告に対し、金二六四万〇〇六九円及びこれに対する平成六年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金四八〇万二五四四円及びこれに対する平成六年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、所有する貨物自動車が交通事故により損傷を受けた原告が、被告に対し、物損の損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実等」という。)

1  原告の業務等

原告は、産業廃棄物の収集運搬等を業とする会社であり、本件事故当時、被害車両を含む七台(なお、原告は、本件事故後、新車を一台増車した。)の一〇トンダンプカーを所有し、これらを産業廃棄物の収集運搬に使用していた(甲四、一九の1ないし7、二〇の1ないし8、三一、弁論の全趣旨)。

2  本件交通事故の発生等

被害車両は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により損傷したものであるが、本件事故当時の被害車両の時価額は、二二〇万円であった

(甲一八、証人高橋隆治、弁論の全趣旨)。

事故の日時 平成六年一〇月一一日午前四時五〇分ころ

事故の場所 千葉県市川市原木二五二六番地先国道三五七号線路上(以下、同道路を「本件道路」という。)

加害車両 普通貨物自動車(四トン車。土浦一一ゆ五三一一)

右運転者 被告

被害車両 普通貨物自動車(一〇トンダンプカー。習志野一一に六四三〇。甲二)

右運転者 訴外佐々木三郎(以下「佐々木」という。)

事故の態様 直進中の被害車両と車線変更した加害車両とが衝突した。事故の詳細については、当事者間に争いがある。

3  責任原因

被告は、車線変更の際の安全確認不十分の過失があるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

三  本件の争点

本件の争点は、本件事故の態様(過失相殺)と原告の損害額である。

1  本件事故の態様(過失相殺)

(一) 被告の主張

本件事故は、被告が本件道路の第二車線から第一車線に車線変更した際、第一車線を後方から進行中の被害車両と衝突したものであるが、被害車両の前後に車両はなく、佐々木が加速ないし減速して、本件事故を回避することは容易であったというべきところ、佐々木が前方を十分注視していなかったため、車線変更の合図を出して進入してきた加害車両の発見が遅れ、事故回避の措置をとることができなかったものであるから、原告の損害額を算定するに当たっては、佐々木の過失を斟酌すべきところ、その過失は、少なくとも三〇パーセントを下らない。

(二) 原告の認否及び反論

佐々木に過失があるとする点については、争う。

本件事故当時、被告は、佐々木車両を追い越そうとして時速約六〇キロメートルで第二車線を進行中、進路前方のトレーラーに追突しそうになり、第一車線の状況を確認せず、ウインカーを出すと同時にいきなり被害車両の直前に車線変更してきたものであり、佐々木は時速約五〇キロメートル弱で進行しており、加害車両との衝突を回避することは困難であったから、佐々木に過失はない。

2  原告の損害額

(一) 原告の主張

(1) 車両損害 二二〇万〇〇〇〇円

被害車両の修理費見積は、二三四万三三二〇円であり、本件事故当時の時価額である二二〇万円を上回っていたから、本件事故により経済的全損となったものであり、原告の車両損害額は、右時価額となる。

仮に、被害車両の修理費が一七三万九三四〇円程度にとどまるとしても、本件では修理費の三〇パーセントに相当する格落損五二万一八〇二円が生じており、右修理費に格落損を加えた額は、二二〇万円を上回ることになるから、いずれにしても原告の車両損害額は右金額を下らない。

(2) 休車損害 二一〇万二五四四円

原告は、本件事故により被害車両を使用できなくなったため、事故日から買替車両が納入された平成七年一月二六日までの一〇八日間、訴外ジャパンクリーンテック株式会社(以下「ジャパンクリーンテック」という。)、訴外北総企業有限会社(以下「北総企業」という。)、訴外杉田建材株式会社(以下「杉田建材」という。)に外注に出さざるを得なくなったものであるが、産業廃棄物の運搬車両は、法律上都道府県知事の許可なしには走行できず、原告が他から代替車両を調達して使用することはできないから、本件事故がなければ原告が支出しなかった外注費の増加は、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

原告は、本件事故前の平成六年七月ないし九月の三か月間に一日当たり平均一・九七台(杉田建材一・一一台、その他〇・八六台)を稼働し、外注費として、ジャパンクリーンテックと杉田建材に一回当たり各二万八八四〇円、北総企業に一回当たり二万五七五〇円(いずれも消費税を含む。)の一日当たり合計五万四一五七円を要していたところ、ここから一日当たり三万四六八九円の変動経費を控除した、一日当たり一万九四六八円が原告の一日当たりの損害であり、これに一〇八日を乗じると、その間の原告の休車損害は、合計二一〇万二五四四円となる。

なお、原告は、本件事故当時、ダンプカーの運転手七人を雇用して、原告所有車両に専属的に使用させていたものであり、遊休車はなかった。

(3) 弁護士費用 五〇万〇〇〇〇円

(二) 被告の認否及び反論

原告の損害額については、いずれも争う。

(1) 修理費について

被害車両は全損ではなく修理が可能であり、修理費としては一七三万九三四〇円が相当である。また、被害車両は、初度登録後七年余り経過しており、格落損は発生しない。

(2) 休車損害について

佐々木は、本件事故後も事故前と同様に稼働している上、被害車両の運行回数は比較的少ないから、被害車両は遊休車である可能性があり、また、原告は、本件事故後に新車を増車しているのであるから、これらを稼働することにより、外注の必要性については、疑問がある。

仮に、外注の必要性があったとしても、被害車両の修理に要する期間としては、長くとも一か月とすべきであり、また、原告は、被害車両を使用しなかったことにより、本来負担すべきはずの佐々木の人件費のほか、燃料費、高速代等の経費の支出を免れているのであるから、これを損害額から控除すべきである。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の態様(過失相殺)について

1  前記争いのない事実に、甲三二の1、2、乙二の1ないし12、三、証人佐々木三郎、被告本人、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件道路は、千葉県市川市高谷方面から同市二俣方面に向かう片側二車線の道路であり、首都高速道路湾岸線の入口付近に位置している。

本件道路の最高速度は、実況見分調書(乙三)に記載はないが、一般道の最高速度である、六〇キロメートル毎時と推認される。

(二) 被告は、本件事故当時、運送業を営んでおり、本件道路はよく通行していたものであるが、本件事故当日、千葉県内に集荷作業に向かうため、加害車両を運転し、本件道路の第二車線を時速約六〇キロメートルで進行中、進路前方に被害車両が走行しており、重そうな感じがしていたことから、加速しながら第一車線から追い越しにかかり、被害車両の前に出たところ、進路前方に進行中のトレーラーを発見し、追突しそうになったため、ウインカーを出すとともにハンドルを右に切り、それと同時に被害車両を確認したが、その直後、被害車両の左前部と加害車両の右側後部が接触、衝突した。

(三) 佐々木は、本件事故当時、本件道路をよく通行していたものであるが、本件事故当日、千葉県浦安市行徳の原告の積替保管所から同県市原市内の杉田建材の処分場に向かうため、被害車両に産業廃棄物約一一トンを積載して被害車両を運転し、首都高速道路湾岸線に入ろうとして、本件道路の第二車線を時速約五〇キロメートルで進行中(第一車線には、トレーラーが左前方約一〇メートルを進行していた。)、加害車両が第一車線を加速しながらトレーラーに接近しているのがミラーで目に入り、追突すると思って見ていたところ、加害車両が第一車線から第二車線の被害車両の直前に進入してきたため、危険を感じ、ブレーキを掛けるとともに右に避けたが避けきれず、加害車両と接触、衝突した。

本件事故当時、加害車両を除き、被害車両の進路の前方及び後方を進行中の車両はなく、佐々木は、本件事故の接触前、加害車両のウインカーには、気づかなかった。

2  右の事実をもとにして、本件事故の態様について検討するに、本件事故は、同一方向に進行する車両同士の、進路変更車(加害車両)と後続直進車(被害車両)との事故であるが、被告は、車線を変更するに当たり、被害車両が接近しているのにかかわらず、右方の安全を確認しないまま進路を変更しており(なお、被告がウインカーを出したのは、車線変更と同時であるから、後続車に対する関係では実質的に車線変更の合図をしたとは認められない。)、その直後に本件事故が発生しているのであるから、本件事故は、専ら被告の進路変更時の後方安全確認義務違反の過失に基づくものというべきである。

そして、本件において、他に過失相殺をしなければ、当事者間の公平を欠くべき事情は認められないから(被告は、被害車両の前後に進行中の車両がなく、加害車両がトレーラーに接近しているのであるから、被害車両としても、事故回避のため、加速ないし減速すべきであると主張するもののようであるが、本件において、佐々木にそのような義務は認めがたい。また、被害車両が過積載をしていたことが本件事故に影響しているともいえない。)、過失相殺をしないこととする(なお、甲三二の1、2によれば、被告も本件事故直後は、佐々木の過失を争っていなかったことが窺われる。)。

二  原告の損害額について

1  修理費 一八五万六〇二九円

甲二、一七、一八、乙一、二の1ないし12、三、六、証人高橋隆治、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 被害車両は、昭和六二年八月初度登録された普通貨物自動車(一〇トンダンプカー)であり、本件事故当時、登録後七年を経過し、走行距離は、五五万七四七二キロメートルであった。

被害車両は、本件事故後、訴外千葉いすゞ株式会社船橋工場に搬入されていた。

高橋は、車両損害の査定を業務としているものであるが、本件事故当時、経験年数が一八年、査定件数も相当数あり(したがって、その査定内容は概ね信用できるものとみられる。)、平成六年一〇月一八日、同工場において、被害車両を確認し、修理は可能と判断したものの、同工場の修理見積が出ていなかったため、パーツリストを見ながら査定を行ったが、数日後に保険会社から被害車両の修理はしない、被告側の見積もりを出してほしいとの連絡があったことから、そのころ、同工場で再確認を行い、同年一二月一三日、被害車両の修理費を一七三万九三四〇円とする見積書(乙一)を作成した。

高橋は、原告が被害車両の修理をしないとの意向であったため、被害車両を細部まで確認することができず、外見上から査定の判断を行ったが、その際、キャブを上げて車体の内部を見ており、また、フレームの損傷は発生していないと判断した。

被害車両は、同年一〇月中に同工場から引き上げられたが、現実には、修理されなかった。

(二) 右の事実に、甲一七、乙一を総合して検討すれば、被害車両の修理費は、乙一(一七三万九三四〇円)記載の金額に、高橋の査定から落ちたものと認められる、甲一七記載のフロントパネルフィニッシャー(一七五〇円)、フロントスプリングセンターボルト(一三八〇円)、レッカー出動料金(五万九五〇〇円)の合計六万二六三〇円の合計額一八〇万一九七〇円に消費税(三パーセント)分を加算した、一八五万六〇二九円と認めるのが相当である。

原告は、甲一七を根拠に被害車両の修理費は二三四万三三二〇円であると主張するが、甲一七は、本件訴訟提起後の平成八年一月二六日訴外東京いすゞ自動車株式会社板橋工場により作成されたものであり、本件事故後相当期間を経過した点の経緯が明らかでなく、直ちに措信しがたい(なお、前認定のとおり、被害車両は、現実に修理されていないから、乙一に比較して、甲一七の信用性が高いとは直ちにいいきれない。)。

また、証人高橋によれば、被害車両には、フレームに及ぶ損傷はないと認められる上、前認定の被害車両の登録後本件事故までの経過期間、被害車両の走行距離等をも併せ考えると、原告に格落ち損は発生しないというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2  休車損害 五八万四〇四〇円

甲三ないし一六、一九の1ないし7、二〇の1ないし8、二一の1ないし5、二二の1、2、二三ないし二八、三〇、三一、三三、乙四、五、七、証人髙田紀典、同佐々木三郎、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、本件事故当時、各地の工事現場から原告所有の四トン車で廃材等の産業廃棄物を収集し、いったん千葉県市川市行徳の原告の積替保管所に持ち込み、種類に応じてごみを選別した後、さらに原告の所有する一〇トンダンプカー七台(被害車両を含む。)のほか、杉田建材、ジャパンクリーンテック(杉田建材の関連会社)、北総企業等の外注先に依頼して、杉田建材ほか数社の処分場や他の買取業者のところに運搬することを業務の内容としていた。

原告所有車両を使用した場合の費用と、外注先を使用した場合の費用(外注費)とでは、外注費の方が高いので、原告は、まず所有車両で運搬を行い、それで処理できない分を外注に出すことにしていた。

原告は、本件事故当時、原告代表者が代表者を兼任する、訴外ハシビ建設工業株式会社(以下「ハシビ」という。)から佐々木ら運転手の派遣を受け、人件費をハシビに支払い、その他の燃料費、高速代、修理費、外注費等は、原告が支出していた。

原告所有の一〇トンダンプカーは、それぞれダンプカーと同数の運転手が専属で使用しており、本件事故当時、被害車両は佐々木が専ら使用していた。

本件事故後、平成七年一月までの間に新たに原告に雇用された運転手は、いなかった。

(二) 原告は、本件事故により被害車両を使用できなくなったが、原告の積替保管所には、産業廃棄物を貯めておくことができず、また、その運搬には、都道府県知事の許可を受けた車両しか使用できないため、原告が従来被害車両を使用し、杉田建材の処分場に行っていた分は、そのまま杉田建材に、それ以外の場所に行っていた分は、ジャパンクリーンテック、北総企業、杉田建材のいずれかに外注に出さざるを得なくなった。

本件事故後、原告は、本件事故と無関係に車高の低い新車(習志野一一に九七九四)を購入し、原告所有の一〇トンダンプは合計八台となったが、外注費を抑えることはできなかった。

そして、甲五ないし一六、三〇、三一、証人高田、同佐々木、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故前の平成六年七月ないし九月の三か月間(九二日間)に一日当たり平均一・九七台(杉田建材一・一一台、その他〇・八六台)を稼働していたところ、本件事故後の外注台数は、杉田建材、ジャパンクリーンテック、北総企業の三社合計で一日当たり三・五三九台増加していることが認められ、前認定のとおり、原告は、所有車両を使用した方が外注に出すより費用が少ないのであるから、右外注台数の増加は、本件事故がなければ、生じていなかった事態と推認され、本件事故と相当因果関係があると認められる。

しかるところ、原告は、本件事故前、外注費として杉田建材に一回当たり平均三万二〇一二円、ジャパンクリーンテックと北総企業に一回当たり平均二万二一四五円(いずれも消費税を含む。なお、本件事故以前から杉田建材に行っていた分以外は、最も費用の少ない北総企業の外注費により算出する。)の一日当たり合計五万四一五七円を要していたものであり、変動経費として一日当たり三万四六八九円を要していたのであるから、右変動経費を控除した、一万九四六八円が原告の一日当たりの損害と認められる。

(三) 原告は、休車期間として本件事故日の平成六年一〇月一一日から買替車両が納入された平成七年一月二六日までの一〇八日間を主張し、これに沿う証拠もあるが(甲三)、他方で、証人高橋によれば、被害車両の修理には、通常であれば約一か月間を要するとしており、前認定のとおり、被害車両は修理が可能であり、新車購入を前提として休車期間を算定するのは相当でないから、原告の休車期間としては、右一か月間に限定するのが相当である。

(四) そうすると、原告の休車損害としては、前記一日当たり一万九四六八円の損害に三〇日を乗じた五八万四〇四〇円とするのが相当である。

3  小計 二四四万〇〇六九円

三  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情を総合すると、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、二〇万円と認めるのが相当である。

四  認容額 二六四万〇〇六九円

第四結語

右によれば、原告の本件請求は、二六四万〇〇六九円及びこれに対する本件事故の日である平成六年一〇月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

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